【脳疾患の現状と細胞治療の可能性】
脳疾患には、脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)と呼ばれる病気があります。脳血管障害に共通するのは、脳の血管(血流)に異常が起こり、出血による炎症・圧排または虚血による脳組織の障害により発症する点です。発症後、たとえ命が助かったとしても後遺症(片麻痺(いわゆる半身不随)や感覚障害、嚥下障害、種々の認知機能障害など)が残る方も大勢います。こうした脳血管障害などの治療に幹細胞医学がたいへん注目を集めています。脳血管障害などで機能を失った神経細胞やその周辺の細胞が、幹細胞移植によって神経回路を再び形成し、健常に近い状態を再現できれば、後遺症の治療などに役立つと考えられるからです。
【現在、治療や動物による研究が行われている機関】
◆ 京都薬科大学 ◆ 大阪市立大学 ◆ 東京大学医科学研究所(臍帯由来)
◆ 高知大学(臍帯由来) ◆ 国立循環器病研究センター(骨髄由来)
◆ 札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所(骨髄由来)
◆ 先端医療センター病院
【国立循環器病研究センターの症例】
心臓にできた血栓が血流によって脳へ運ばれることで発生する心原性脳梗塞の患者を対象として、患者自身の骨髄由来幹細胞を注射することで脳血管組織を再生させる後遺症治療の臨床研究が行われており、実施された8 症例のうち、半年後には6 症例で歩行可能なまでに改善したほか、脳の血流量が増加するなどの効果が見られたと報告されています。
【先端医療センター病院の症例】
心原性脳梗塞の発症直後の重症患者を対象に、患者本人の骨髄から採取した幹細胞を注射し、患部周辺の血管を再生して障害を受けた神経機能を回復させる臨床研究が行われました。これは、脳梗塞の発症直後に神経幹細胞が患部周辺へ集まって神経を再生しようとする現象に着目した臨床研究であり、動物実験では、血管の再生により神経幹細胞に栄養などが供給されることで失われた神経機能が改善されることが確認されていました。12 症例について実施され、半年後には 9 症例で自力歩行が可能となったことが報告されています。
※ 幹細胞に関する様々な情報は、ヒト幹細胞情報化推進事業(SKIP:https://www.skip.med.keio.ac.jp/)や日本再生医療学会雑誌、各大学や施設の論文及び記事などを参照しております。