【神経系疾患の現状と細胞治療の可能性】
交通事故やスポーツ事故、高所からの転落事故などで脊髄を損傷し、運動まひなどの後遺症に苦しむ患者は全国で年間約 5000 人が新たに発生するといわれています。現状では有効な治療法はなく、中枢神経は一度傷つくと回復しないといわれ、一生ハンディキャップを背負って生きていかなければならず、その後のケアに関わる医療費や社会保障費が掛かる面からも社会的問題になっています。こうした脊髄損傷などの治療に最近では自家幹細胞投与による治療法が注目されています。
骨髄由来間葉系幹細胞を患者に投与し、傷ついた脊髄の神経を再生させる治療法の実用化に向けた国内の研究が注目されており、将来的には慢性期の患者や、さまざまな神経疾患の治療に応用範囲を広げられると期待されています。
【現在、治療や研究が行われている機関】
◆ 札幌医科大学 ◆ 広島大学 ◆ 関西医科大学
◆ 大阪大学 ◆ ジェロン社( アメリカ) ◆ 聖マリアンナ医科大学
◆ 名古屋大学(歯髄由来) ◆ 京都府立医科大学
【札幌医科大学の症例】
脊髄損傷の患者(損傷から14日以内で、脊髄のうち主に首の部分を損傷した20歳以上65歳未満の患者)を対象に、患者本人の骨髄から採取した幹細胞を培養し、患者の静脈に投与して脊髄の神経細胞を再生させる治療法の効果や安全性を確かめる臨床試験(治験)が行われています。
幹細胞には、体の損傷部分に集まるという性質(ホーミング効果)があり、幹細胞が脊髄の損傷部分に達すると幹細胞から神経を回復・保護したり、炎症を抑えたりするなどの様々なファクター(成長因子)が分泌されます。それらが放出されると急性期の脊髄損傷を食い止める、あるいは回復させるという効果が確認されており、さらには幹細胞そのものが数週間後に神経に分化して再生すると考えられています。
動物実験では、歩行できなくなった個体が再び歩行できるようになるなどの治療効果が確認されており、臨床試験でも神経が再生され手足が動かせるようになると期待されています。2016年10月までに30人を目標に、現在も臨床試験は進められています。
※ 幹細胞に関する様々な情報は、ヒト幹細胞情報化推進事業(SKIP:https://www.skip.med.keio.ac.jp/)や 日本再生医療学会雑誌、各大学や施設の論文及び記事などを参照しております。